仏像修復の流れ【後編】
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【仏像修復の流れ【後編】】


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仏像仏教の基礎
修理の話


仏像修復の流れ【後編】

■ 5-1:修復作業(構造体の修理)

ここにきて、ようやく各部材の修理に入ります。
ばらばらの部材を1つ1つ、 腐っているところは樹脂を注入し、 欠けているところは補い、 足らないところは継ぎ足し、 虫穴をつめます。
そして、各部材の修理ができてきたら、再び、仏像としての形をくみ上げていきます。
感覚的にはプラモデルとほぼ同じ感じがします。

文章で書くとこれだけのことですが、実際にやると、 ばかばかしいぐらい実に膨大な時間と手間がかかります。
…無数にある虫穴を1つ1つ詰めていったり…。
…完全になくなった仏手を復元したり…。
無論、そのための資料集めも重要な仕事です。
見えないところにも、大きな労力がかかっています。
ですから、修理といえども、新しい仏像を作るのと同程度、損傷状況によってはそれ以上の手間がかかることもあります。


■ 5-2:修復作業(彩色系の修理)

多くの像は(素地仕上げのものもありますが)彩色や漆箔や仕上げになっています。
…つまり、色が塗ってあるか、金箔が貼ってあります。
長い年月の中で、これらが風化し完全に落ちてしまった時などは問題になりませんが、 浮き上がったり、剥落しかけたり、不安定な状態の時は、これら表面層の彩色や漆層を再び接着していきます。
この作業を主に”剥落止め”といいます。
像の状態にもよりますが、これらの作業は特に細かな作業になります。
浮き上がった剥落片、1片、1片に膠やふのり溶液、あるいは樹脂などを注入していきます。
直接、表面の状態に関わる作業なだけに、最後の仕上がりに大きな影響を与えます。
膠溶液や樹脂の照り、しみ…根気と気を使う作業です。
この作業は馬鹿馬鹿しい位の、時間と労力がかかります。
また、作業自体、気を使う割には単調なので、つらい作業といえます。
…ただ、彩色や文様などを勉強している人にとっては、至福の時…だそうです。

■ 5-3:修復作業(仕上げ)

新補した箇所、剥ぎ目、木糞、サビ、などで繕った箇所はそのままだと非常に目立つ状態にあります。
また、元の部材を接合していく過程でも、ずれや目違い(材自体にゆがみが発生しているため)が生じます。
…そういった細かい箇所を修整しつつ、種々の絵の具や漆、などをつかって 修理箇所を全体の雰囲気になじませていくのが”仕上げ”といえます。
絵の具などを使ってなじませるという1点のみに着目すれば”古色”などということもあります。

悪い古色は、色を合わせられずに、像の当初部分にまで古色を広げます。
良い古色は、修理した箇所、最低限の所の処理だけで雰囲気を合わせたものです。
これは、ほとんど、感性勝負の仕事といえます。
下手な人は何度やっても、どれだけ時間をかけてもうまくいきません。
上手い人は、1度で、上手くいくこともあります。
そして、この作業が終われば、修理の仕事そのものは完成となります。

■ 6:完成写真

修理が完成した状態を写真で撮ります。
また、修理箇所の説明、修理仕様の説明等の書類をまとめます。
ものによっては、修理前と修理後で、たいして写真写りが変わらないこともあります。
(正直、そういう時は、かけた労力が写真に現れないことに釈然としないですが…)
ただ、文化財的修理の中では、それは良いことと言うこともできます。
現状維持修理が至上命題ですから。

ただ、お寺さん的には、綺麗になって帰ってくると思ったのに…
→あまり変わっていない。
→がっくりする。
ということもまれにあります。
ただ、修理者サイドとしては、ひとまず、完成して、ほっとする瞬間でもあります。

■ 7:搬出

再び、持ってきた時のように、薄用紙にくるみ、さらしで巻いて梱包します。
持ってくる時と違い、返す時は梱包に不備がないように時に気を使います。
返しに行く途中で壊れたら、洒落になりません。

さて、お寺での安置が終われば、全ての作業が終わりですが、実は、これが最後の難関というようなことがたまにあります。
像が特に大きかったり、安置場所が異常に狭いと苦労します。
仏像を修復している間に新しい安置場所を作ったんだけど…入らなかった…という、ばかばかしい話は 本当にあるのです。
安置に苦労して、再び部材が壊れるなどということもまれにはありますが、それでも完全に全ての作業が終わると うれしいものです。


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